フランスの取引先から返信が来ない理由 |8月は止まる、動くのは9月から
フランスの営業は、「何をやるか」より「いつ動くか」で結果が変わります。同じ商品、同じ資料、同じ熱量でも、7月に出すか9月に出すかで返ってくる反応がまったく違う。いま取引先から返信が来なくて不安な方へ、先に結論をお伝えします。8月なら、それは断られたのではなく、相手がバカンスで不在なだけです。フランスの一年は、夏に止まり、9〜11月に商談が動き、12月に売れる——このリズムがはっきりしています。パリ・南仏で日本ブランドの現地営業を担ってきた私たちの経験から、月ごとの動き方と、逆算の組み立て方を整理します。
01OVERVIEW【結論】フランスの営業は「何をやるか」より「いつ動くか」で決まる
フランスで売るための打ち手そのものは、そう多くありません。店を回る、展示会に出る、販売会を開く、メディアに載る。この4つが軸です。私たちがこれまで書いてきたのも、その一つひとつの進め方でした。
ところが現場に立ってみると、打ち手の質より先に効いてくるものがあります。それが時期です。
なぜなら、フランスの店側にも一年のリズムがあるからです。バカンスで判断が止まる時期、クリスマスに向けて仕入れを決める時期、在庫が満ちていて何も検討しない時期。相手が動く時期に合わせて提案すれば、同じ提案が通ります。外せば、良い商品でも「今じゃない」と言われて終わります。
この記事は、一年を6つの時期に分けて「その月に何が起きるか」「私たちが何をしたか」を並べたものです。カレンダーとしてではなく、逆算表として読んでいただけると、使いやすいと思います。
02JUL-AUG7〜8月|市場が止まる。だからここは「仕込み」に使う
まず、いま多くの方が困っている時期の話をします。
7月下旬から8月いっぱい、フランスの商売は止まります。仕入れ担当者も、店のオーナーも、バカンスに入って不在になる。メールを送っても返信は来ません。電話も繋がりません。これは相手の対応が悪いのではなく、そういう国だと理解するところから始まります。
私たちが8月に南仏の3都市——ニース・カンヌ・モナコ——で十数件の店を回ったときも、そうでした。店は開いていても、いるのは店員だけ。仕入れの決定権を持つ担当者に会えたのは、そのうち数件です。ある書店では、仕入れ担当者がバカンス中で、名前と連絡先だけを教えてもらいました。ある茶葉店では、その場でこう言われました。「バカンスが終わる9月以降に、改めて来てほしい」と。
ここで大事なのは、この言葉を落胆として受け取らないことです。これは断りではなく、時期の案内です。実際、私たちはこの8月の訪問で得た連絡先をもとに、9月末に予定していたクライアント社長の訪仏に合わせて、5件の訪問候補を組み直しました。8月の訪問は「売る」ためではなく、9月に会う約束を作るためのものだったわけです。
もうひとつ、止まる時期にしかできない仕事があります。日程の確定です。
同じ8月、私たちは南仏のショールームを訪ね、オーナーと対面で話して、11月の販売会の日程をその場で固めました。オンラインのやりとりでは決して分からないことが、行けば分かります。その店は路面ではなく建物の2階にあり、ふらっと入ってくる客はいない。だから事前告知の設計が成否を分ける——この読みは、現地で店の構造と客層を自分の目で見たから立てられたものです。
7〜8月にやるべきことは、提案ではなく仕込みです。 秋の日程を押さえる。会う約束を作る。資料を仏語で仕上げておく。市場が止まっている時期は、こちらが準備を終わらせるための時間だと考えてください。
03SEP9月|バカンス明けが、一年で最初の勝負どころ
9月に入ると、フランスは一気に動き出します。そしてここからの3ヶ月が、一年で最大の商談期です。
理由はシンプルで、9〜11月がクリスマス商戦に向けた仕入れ期だからです。店は年末に何を売るかをこの時期に決めます。つまり、新しい商品を検討する動機が、店側にある数ヶ月なのです。裏を返せば、この窓を逃すと、次に検討してもらえるのは翌年になります。
9月は大規模な見本市が開かれる月でもあります。私たちが同行したパリ郊外の見本市では、5日間の会期で70件を超える来場者リストが残りました。ただ、会期中にまとまった注文は数件です。ここで「出て損した」と考えると、いちばん大事な仕事を落とします。
会期が終わってからが本番です。私たちは会期後の数日でパリ市内の既存店・新規店を10件ほど回り、そのうえで9月末から10月にかけて、来場者リストへのフォロー連絡を仏語圏・英語圏で分担して進めました。狙いは明確で、10〜11月の仕入れ判断に間に合わせることです。展示会のリストは、放置すれば数週間で冷めます。仕入れ期に照準を合わせて追いかけたとき、初めて受注に変わります。
なお、この時期はもうひとつ効く動きがあります。年末の枠取りです。次の章と、12月の章で触れます。
04OCT-NOV10〜11月|受注の山。ただし日程は「祝日と天気」で動く
10月から11月は、私たちの経験でも受注がいちばん動く時期です。仕入れが決まり、店頭の入れ替えが進み、販売会を開けば人が来ます。年間の山をここに置くのが基本設計になります。
ただ、この時期の現場には、日本にいると想像しづらい変数が2つあります。
ひとつは祝日です。フランスの祝日は、電車やバスの本数が大きく減ります。街に出る人が減り、来場が落ちる。私たちがパリの店舗で販売会を組もうとしたとき、当初の日程の最終日が祝日にあたっていました。これを現地の店舗責任者から指摘され、日程を後ろにずらしました。カレンダー上は3日間の同じ販売会でも、祝日を1日含むかどうかで結果が変わる。日程は「空いているか」ではなく「人が動く日か」で決めます。
もうひとつは天候です。これは、こちらでは動かせません。パリで初めて販売会を開いた11月、初日は記録的な雪でした。来店は2〜3名、注文はゼロ。正直、初日の夜は重い気持ちでした。ところが翌日は天気が回復し、10名以上が来店して、その日にセーターが売れました。3日間を終えて、会期後の追加注文まで含めると7点になりました。
だから、1日単位の結果で判断してはいけません。 私たちが学んだのは、販売会の成否は3日間の合計と、その後に残ったもので測るということです。天気は読めませんが、祝日は読めます。読める変数を先に潰しておくのが、この時期の準備です。
05DEC12月|ギフト需要。勝負は「その時、売り場にあるか」
12月のフランスは、クリスマスのギフト需要で動きます。買う理由が向こうにある月です。
ただ、この月にやれることはほとんどありません。12月の結果を決めるのは、クリスマス前に売り場の枠を取れているかだけです。そして枠は、その前の四半期に決まっています。
私たちの例で言えば、12月にパリの高級時計店で出展させてもらえた枠は、9月のイベント当日にその場で決まったものでした。9月の出展では注文がゼロでした。それでも、次回案内を希望する見込み客の連絡先を10件いただき、店の責任者がストールの品質を気に入って自ら客をブースへ案内してくれた。その日のうちに「12月のクリスマス前にもう一度」という話になり、会場も地下から地上階へ移りました。
12月の当日、その場でお求めいただいたのは2点で、うち1点は「奥様へのクリスマスプレゼントに」という理由でした。9月に集めた連絡先へ事前に案内を送っていたことが、この日につながっています。
つまり、12月は収穫の月であって、種を蒔く月ではない。12月に慌てて動いても、その年のクリスマスには間に合いません。12月に売りたいなら、9月に商談を始めている必要があります。
06JAN-MAR1〜3月|展示会と、次シーズンの種まき
年が明けると、フランスの営業は次のシーズンに向けた仕込みに入ります。
ここで見落としやすいのが、冬のバカンスです。2月から3月頭にかけて、フランスには冬の休暇期間があります。夏ほど長くはありませんが、この間の告知は届きません。私たちは3月の販売会に向けたニュースレターを、冬バカンスが明けた直後の火曜に配信しました。休みの間に流すと、そのまま埋もれます。明けた直後に打つ——これだけで開封は変わります。
告知の準備そのものにも時間がかかります。3月の販売会は1月末に開催が決まり、そこから複数の現地インフルエンサーへの協力依頼、チラシの手配、店の顧客向けニュースレターの原稿と翻訳を、1ヶ月半で走らせました。日程が決まってから告知の設計を始めると、間に合いません。
1〜3月は、商談を仕掛ける時期でもあります。理由は2つあります。
ひとつは、前年の展示会で得たリストが、この時期の営業の起点になること。9月の見本市の来場者リストは、年明けにもう一度動かせます。もうひとつは、店側の事情です。パリのあるテーラーからは、「一旦注文は保留したいが、年明けにまた連絡してほしい。年明けから結婚式などのイベント需要で忙しくなるので、そのタイミングで前向きに検討したい」と言われました。相手の繁忙が、こちらの追い風になることもあります。
ただし、時期を外すとどうなるかも、この季節にはっきり出ます。2月にパリのアートショップやポスター専門店を28軒回ったとき、既存の取引先からこう言われました。「まだ在庫が十分にある。今注文するには早い。次回の注文は3月末を想定しているので、その頃に来てほしい」。断られたわけではありません。時期が合っていなかっただけです。この一言は、次の訪問日を教えてもらったのと同じことでした。
07APR-JUN4〜6月|夏商材と、「夏に出会って冬に買ってもらう」設計
4月から6月は、動きが読みにくい時期です。年末商戦は遠く、バカンスはまだ来ていない。ここで何をやるかで、秋以降の差がつきます。
ひとつは、夏商材の商談です。季節商材の仕入れは、売る時期ではなく、その手前で決まります。たとえば扇子のような夏の商品は、5〜6月が仕入れの中心でした。「暑いからすぐ使いたい」というニーズで店頭で動く商品は、その直前に棚に入っていなければ売れません。年末商戦の逆算と同じことを、夏商材でもやる必要があります。
もうひとつが、この時期のいちばん大事な考え方です。冬の商品は「夏に売る」のではなく「夏に出会って、冬に買ってもらう」。
私たちが6月にパリの日本文化拠点で5日間の販売会を開いたときのことです。来場した方々は品質を高く評価してくれ、じっくり手に取り、質問もたくさんいただきました。それでも、その場での購入は限られていました。多く聞こえてきたのは「冬に買いたい」という声です。
ここで私たちは、販売会の定義を変えました。その場で売る場ではなく、シーズンになったら買いたい人のリストを集める場だと。夏に出会った人に、秋の販売会の案内を送る。この設計にすると、6月の活動が11月の受注に効いてきます。その場の売上が小さかった夏の活動を「無駄だった」と切り捨てるのは、この設計を持っていないからです。
もうひとつ、この時期に仕込むべきものがメディアです。フランスでもプレスリリースを作ってジャーナリストに個別にアプローチするやり方は一般的で、ウェブメディアは比較的すぐに動いてくれます。私たちが4月にメディアへのアプローチを始め、5月に高級時計メディアに掲載されたのも、この速さがあったからです。ただし紙媒体は違います。通常2〜4ヶ月前の準備が必要です。 秋冬号に載せたいなら、春には話を始めていることになります。
そして、この5月の掲載が、9月の時計店での出展につながり、その出展が12月の枠につながりました。春の一手が、年末に効いてくる。フランスの一年は、そういうつながり方をします。
08RISK時期を外すと、何が起きるか
ここまで月ごとに見てきましたが、最後に全体を貫いている一本の事実をお伝えします。
フランスでは、商談から受注まで2ヶ月以上かかります。
これは私たちが初期の1ヶ月の営業を振り返って出した結論で、その後も変わっていません。オーナー自身がじっくり検討する文化があり、仕入れの時期が決まっているからです。初回訪問で興味を持ってもらえても、その場では決まらない。後日の商談、検討期間を経て、相手の仕入れ時期に合わせて、ようやく注文が動きます。
この2ヶ月を計算に入れると、年間カレンダーは見え方が変わります。
- 12月の売り場に置いてほしいなら、遅くとも9月には商談を始めている
- 9月に商談を始めたいなら、8月にはアポが取れている
- 8月にアポを取るには、7月までに提案を送り終えている
つまり、年末に売るための仕事は、実質的に夏に終わっています。 逆に、時期を外したときに起きるのは「失注」ではなく「先送り」です。良い商品でも、在庫が満ちている店には入りません。バカンス中の担当者は判断しません。仕入れが終わった店は検討しません。そして先送りされた案件が次に検討されるのは、多くの場合、次のシーズンです。1ヶ月の遅れが、実際には半年の遅れになる。これがフランスで時期を外したときのコストです。
だから私たちは、この一年のリズムをカレンダーとしてではなく逆算表として使っています。「今月何をするか」ではなく、「あの月に売るために、今月何を終わらせておくか」で考える。それだけで、同じ活動量の結果が変わります。
09SUMMARYまとめ
フランスの営業には、はっきりした一年のリズムがあります。夏(7〜8月)は止まる。だから仕込みに使う。9月のバカンス明けから11月までがクリスマス仕入れ期で、一年で最大の商談期。12月は収穫の月で、その枠は前の四半期に決まっている。年明けから春は次シーズンの種まきと、前年のリストの再起動。そして商談から受注までは2ヶ月以上かかる。
フランスで売れるかどうかは、何をやったかではなく、それをいつやったかで決まります。
いま8月を前にして返信が来ていないなら、それは正常です。焦って追撃するより、9月に会う約束を作ることに時間を使ってください。そのほうが、確実に年末につながります。
とはいえ、この逆算を日本から遠隔で回しきるのは、簡単ではありません。祝日と天候で日程が動くこと、担当者が不在の時期、店が検討を始めるタイミング——どれも現地にいないと掴めない感覚です。パリ・南仏で日本ブランドの現地営業を担ってきた私たちが、年間の組み立てから訪問・販売会・フォローまで現地で動きます。「今年の年末に間に合うか」を具体的に相談したい方は、無料相談からお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
Q.フランスは8月に本当に仕事が止まりますか?
止まると考えて計画したほうが安全です。7月下旬から8月いっぱい、仕入れ担当者や店のオーナーがバカンスで不在になります。私たちが南仏の店を回ったときも、その場にいたのは店員だけで、仕入れの決定権を持つ担当者は不在でした。「バカンスが終わる9月以降に改めて来てほしい」と言われるのが普通です。返信が来ないのは断られたのではなく、単に不在だと考えてください。
Q.フランスの取引先に商談を仕掛けるべき時期はいつですか?
9〜11月です。この時期がクリスマス商戦に向けた仕入れ期にあたるため、店側が新しい商品を検討する動機を持っています。逆に、仕入れが終わった年末や、バカンス中の8月に提案を送っても、判断そのものが先送りになります。同じ資料・同じ商品でも、9月に出すか12月に出すかで返ってくる反応が変わります。
Q.クリスマス商戦に間に合わせるには、いつ動けばいいですか?
夏のうちに動きます。12月に売り場に並ぶかどうかは、その前の四半期に枠が決まっているからです。私たちの場合も、12月の出展枠は9月のイベント当日にその場で決まりました。商談から受注まで2ヶ月以上かかる前提を置くと、12月に置いてもらうには9月には商談を始めていることになります。11月に動き出したのでは、今年はもう間に合いません。
Q.フランスの販売会・イベントの日程は、どう決めればいいですか?
祝日を外して組みます。フランスの祝日は電車やバスの本数が大きく減るため、来場が落ちます。私たちも、最終日が祝日にあたる日程を現地の店舗責任者の助言で組み替えました。加えて、天候で来場は大きく振れます。雪の日に来店が数名まで落ち、翌日晴れて一気に戻った販売会もありました。1日単位の結果で良し悪しを判断しないことが大切です。
Q.冬に売れる商品を、夏に営業しても意味はありますか?
意味があります。ただし「夏に売る」のではなく「夏に出会って、冬に買ってもらう」設計にすることが前提です。私たちが6月にパリで開いた販売会では、品質を高く評価してくれた来場者の多くが「冬に買いたい」と話していました。その場の売上ではなく、シーズンになったら買いたい人のリストを集める場だと定義を変えると、夏の活動が冬の受注につながります。
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この記事の内容を、パリ常駐チームが実務として代行します。戦略設計から現地商談・成約フォローまで一気通貫。
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SUGAR編集部
パリ・南仏で日本ブランドの現地営業を担ってきたSUGAR編集部が、複数年の現場をもとに構成しています。


